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【横須賀】海軍カレーの礎を築いた巨匠!「ウッドアイランド」店主のこだわりと愛

1999年に“カレーの街”を標榜した神奈川県横須賀市。2001年末に誕生したご当地グルメ「よこすか海軍カレー」はいまや全国的な知名度を得る名物となり、「よこすかカレーフェスティバル」をはじめとしたカレー関連のイベントも盛況を博している。

その「よこすか海軍カレー」発展の礎を築いた一軒といえるのが、米海軍横須賀基地の脇に店を構える、カレー専門店「カフェレストラン ウッドアイランド」だ。

1980年(昭和55年)に洋食レストランとして開業した当初から、旧日本海軍で食されていたカレーを再現した“海軍カレー”を提供していた同店。

オーナーシェフの島森隆司さんは、「カレーの街よこすか」をPRする事業者団体「カレーの街よこすか事業者部会」の副部会長も務めており、横須賀のカレー文化発信に尽力されている。

昔ながらの“街の洋食屋さん”といった風情の店内は、木製家具や花柄のテーブルクロスが温もりを演出するアットホームな空間。

戦艦「三笠」や。

「敷島」「初瀬」「河内」「榛名」といった旧日本海軍艦の写真パネルが壁面に飾られていたりと、“軍港”横須賀の老舗店らしい硬派なインテリアの数々で溢れている。

・・・と思いきや、よくよく見ると。

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アニメやゲーム関連のグッズがそこかしこに置かれており、むしろアキバ系ちっくな印象が上回る感じになっている。

これは島森さんの趣味!?ではなく、どれもこれも全て、訪れたお客さん達が展示用にと寄贈してくれたものとのこと。作品を好きな人が喜ぶならば、と置き続けた結果、増え続けてこんなカオスな状況になったのだそうだ。


▲横須賀海軍カレーライス(サラダ、牛乳つき)¥1380-

看板メニューはもちろん、「横須賀海軍カレーライス」!

もともとは英国海軍から伝わった兵食の一つであるカレーシチューを、旧日本海軍が日本人向けにアレンジしたものが、現代のカレーライスのルーツといわれている。

明治41年著『海軍割烹術参考書』に記載されている「カレイライス」のレシピをもとに、当時の味を復元した一品が、ご当地グルメ「よこすか海軍カレー」である。

また、海軍のカレーは栄養バランスを考慮して、サラダと牛乳と共に3点セットで提供されるのが戦時中からの習わしだ。

ちなみに同店の牛乳は、市内の製造会社「協同牛乳」の紙パック牛乳「キョウドウミナミルク 200mlパック」を特別に仕入れている。

一切市販されていない学校納入専用の商品なので、本来は横須賀で育った人しかお目にかかれない。市外の人間にとっては、何気に超レアな牛乳だったりする。

さらに、スプーンにもこだわりが。

YOKOSUKAの文字と錨のマークが刻印された、重量感たっぷりな高級ステンレス製のスプーンだ。なんと、海軍カレー専用スプーンとして特注したオリジナル品だそう。

んんー、いい香りッ!

空炒りした小麦粉と飴色玉葱をベースに、ブイヨンとフォンドボーを加えて具材と共にじっくりと煮込まれたカレーは、とろりとした仕上がりでまろやかな口当たり。

レトロなカレー粉の香りに包まれて、牛肉と野菜の旨味がじーんわりと広がる、優しいコクと深みを持つ味わいだ。実に丁寧に仕込まれたであろう、いっぱいの手作り感に心がほっと和む。

牛肉がごろんごろん!

ニンジンとジャガイモもごろんごろん!

後からピリピリと程良いスパイスの辛味も追いかけて、気付けばスプーンが止まらなくなる。あぁ、美味いなぁ...!

もちろん、福神漬けは相性ばっちりだ!

2015年9月から提供中の、「横須賀海上自衛隊カレー」も注目の一品!

「横須賀海上自衛隊カレー」とは、海上自衛隊横須賀地方総監部の協力と認定を得て、各護衛艦で毎週金曜日に食べられている自慢のカレーを、地元の飲食店がレシピに忠実に再現したものだ。

つまり、現在進行形で各艦の隊員が“実際に食べているカレー”をそっくり再現しているという、ひと口食べれば気分は海上自衛隊員!?な、横須賀の新ご当地グルメである。


▲試験艦あすかカレー¥1200-

「ウッドアイランド」の担当は、「試験艦あすか」のカレー!

たっぷりの豚肉の旨味が溶け込んだパワフルな仕上がりで、キウイとリンゴのフルーティな甘味と酸味がアクセント。濃厚で奥深い味わいの中に、どこか和の風味も感じさせるのは、隠し味に醤油やウスターソースが使われているからか。

ニンジンとジャガイモもごろんごろん!

明日を生きる活力が湧くぜーッ!


▲横須賀海軍珈琲¥550-(※食事とセットの場合は¥480-)。

食後の「横須賀海軍珈琲」も、同店だけのオリジナル。

旧日本海軍が環太平洋に進出した際、インドネシアやパプアニューギニアから調達した生豆を艦内で焙煎して淹れていた珈琲、をイメージしたという一杯だ。

深煎りながらすっきりとした飲み口で、上品な香りと苦味が趣深い。

きび糖の小さな角砂糖を一つ口に含んで甘味が広がったら、再び珈琲を啜るのがよし、とのこと。往時の情景に想いを馳せながら、余韻を楽しむ...!

驚くことにこのカップ&ソーサーも、錨に桜花を重ねたシンボルが入った、オーダーメイド品だそうだ。

料理はもちろん食器に至るまで、随所にこだわりの職人魂を感じさせる「ウッドアイランド」。

近隣の某店シェフから聞いた話では、新メニューのカレーを島森さんに試食してもらおうと持って行ったところ、使用した具材の産地まで言い当てられてしまい、畏敬の念を抱いたとか。

そんな横須賀の巨匠・島森さんに、お店の歴史や海軍カレーへの想いなどについて話を伺った。


▲島森さんは横須賀出身、横須賀在住。生粋の“スカっ子”だ。

――― まずは、「ウッドアイランド」開店までの経緯を教えていただけますでしょうか。

島森さん:若い頃から自分で洋食の店を持ちたいという目標があり、学生時代から料理の修業をしていました。ホテルのレストランで働いたり、横浜の洋食店で働いたり、フランス料理店で働いたりと、色々な飲食店を渡り歩きました。

それから飲食とは関係の無い会社でサラリーマンも経験し、社会経験を積みながら資金を貯めたりして、33歳でこの店を開店しました。


▲米海軍横須賀基地への3つの入口のうちの1つ、三笠ゲート(ウォンブルゲート)の脇に店がある。

――― なぜ米軍基地の目の前という場所を選んだのでしょう。

島森さん:場所そのものはたまたまご縁があって、“仕舞た屋”と言うんですか、普通の空き民家だった物件を紹介してもらったんです。それを、序々に改装して大きくしていって。

近隣に「神奈川歯科大学」や「横須賀学院」があり、また当時は周囲に保険会社の営業所も15~6社あって、とても人通りが多かった。外で食事をする学生達やサラリーマンのための食堂があればと思い、この場所を選びました。

今のように頻繁にイベントはなかったですが「三笠公園」も近く、観光客の流れもあったので、経営的な観点でも魅力的な場所だなと。


▲店のすぐそばには、三笠公園入口を示すアーチも建っている。

――― では、実は米軍基地の存在はあまり関係ないと。

島森さん:そうですね。米海兵のお客さんをメインに想定していたわけではありません。むしろ、米軍基地内で働く日本人の方々に、仕事帰りに一息つく場所として利用されることが多かったです。

――― 以前はこの周辺には、飲食店が沢山あったと聞きます。

島森さん:沢山ありましたが、環境の変化で段々と少なくなってしまいました。一番の大きな原因は、保険会社が軒並み無くなったことでしょうか。特に喫茶店は営業マンのミーティングの場所として機能していた側面が強かったので、朝から10人以上の予約が入る、なんてケースもザラだったようでしたから。

――― 開店当初は多彩な洋食を提供されていた中で、海軍カレーを考案された動機は何だったのでしょう。

島森さん:店を開店する際に、海兵だった経験を持つ父親から「昔、海軍で食べられていたカレーをメニューに入れたらどうか」と提言されたのがキッカケです。

洋食のカレーの場合は、ビーフ、ポーク、チキン、あとは野菜やシーフードなども、レシピの型が決まっているものが多く、それとは違った面白いものが作りたかった。当時は海軍カレーの存在自体が全然知られていませんし、旧日本海軍にいた人でなければ作り方が分からないものでしたから、父親に教えてもらいながら作ったレシピで、海軍カレーを完成させました。

――― やがて海軍カレーは横須賀市のご当地グルメとして、市をあげての街おこしプロジェクトになります。そうなる前と後での、状況や心境の変化はありましたでしょうか。

島森さん:やはり、力の入れ方が変わりました。

私が独自に出していた海軍カレーは、お店のただのひとつのメニューだった。いくつかあるカレーの種類の中のひとつに過ぎませんでした。それまでは洋食屋として、スパゲッティがあったり、ハンバーグがあったり、ビーフシチューやハヤシライスがあったりしたのを、そういったメニューを減らしながらカレーだけを残していくのには抵抗がありました。

でも市全体で皆でやるんだから、なんとかしなきゃいけないなと。

――― 今では、レギュラーメニューはカレーのみに絞られています。

島森さん:メニューを切り替えるタイミングも難しかったですね。常連のお客さんに、「あれ、オムライスは無くなったの!?」なんて怒られちゃったりして。だけど周囲の環境も変わるし、時代に合わせるというかね、カレーでやっていこうと覚悟しました。

自分の今までの経験や閃きを頼りに、海軍カレー以外にも様々なカレーを試してきたんですよ。

――― それは初耳です。具体的にはどのようなカレーがあったのでしょう。

島森さん:例えば、「おっぱいカレー」というものを作ったんです。

――― おっぱいカレー、ですか。

島森さん:そう、おっぱいカレー。

――― おっぱいカレー。

島森さん:そう、おっぱいカレー。

――― 盛り付けで見た目を似せた、のですか。

島森さん:そう、おっぱいのかたち。

――― それはユニークな。

島森さん:これが反響がすごくて、市役所内で噂になったようなんです。観光課の職員さんが大勢で来て、全員でおっぱいカレーを食べたり。他部署の職員さんも、かわるがわる来たの。

それで毎回まったく同じでは申し訳ないから、乳首部分のトッピングをアレンジするようにして。プチトマトや、大豆、小さめのマッシュルームにしてみたりとか。そのうちに、作ってる私のほうが面白くなっちゃってね。

でも皆注文するときに、ウチの奥さん(※奥様は接客担当)に、堂々と「おっぱいカレー下さい!」って言えないんだよ。うつむいてメニューを指さして、「これ下さい…」って言うだけというね。

――― その気持ち、分かります。

島森さん:小泉内閣の時は横須賀市そのものが全国的に注目されたので、行政改革にちなんで、「小泉行革カレー」を作りました。これも結構話題になったなあ。

――― 小泉行革カレーは、どういったカレーだったのですか。

島森さん:チキンベースのカレーです。カレーに使う肉を何にしようかと考えたときに、小泉さんは見た目的に鳥だなと。牛じゃない、豚でもないなと。

――― 3択では確実に鳥ですね。

島森さん:まあ個人の店だからメニュー展開が自由なので、好きなようにウケ狙いができるんですよ。興味を持って来てもらえたら、あとは味で「なるほど!」と、納得してもらえばいい。

結局自分でも楽しまないと、いいものは作れないと思っていますから。

――― 島森さんの、お店へのこだわりをお伺いしても。

島森さん:いい料理を作ることはもちろん、食器にも、雰囲気にも全てこだわります。お客さんは全部を敏感に感じ取りますから。それを総合して、「ああよかった、また来よう」となるわけで。

――― 私も、“おいしい”は料理の味だけで決定されるものではない、と考えています。

島森さん:その通り。例えばウチはお皿ひとつとっても、海軍カレーを出すのだから、そのルーツであるイギリス製のお皿を使っています。スプーンもカレー用に、オリジナルのものを作りました。横須賀の店なのだから、食材はもちろん、できるだけ横須賀産のものを使う。

全てにおいて自分が納得しているものを出さないと、お客さんに対して失礼でしょう。


▲福神漬けも、国産野菜で作られた国産モノにこだわる。一般的な仕入れ値より4割ほど高値だとか。


▲レトルトカレーやスプーンなどは店内で販売もしている。お土産にぴったりだ。

――― サラダの野菜も全て、横須賀産の野菜を使っていらっしゃるとか。

島森さん:横須賀は明治時代に旧日本海軍の本拠地が置かれたことで、近代技術の集積地となりました。当時は流通が今ほど発達していない時代ですから、そこで働く何万人もの人たちの食料を、横須賀の地が賄っていたんです。海もあり山もあり自然に恵まれている横須賀だから、魚も、野菜も、肉も、卵や乳製品だって、新鮮さが問われる食材でも全部供給できた。

その名残があるから、横須賀には地産のいいものが今も沢山あるんです。それを広く知ってもらって、地域の産業を盛り上げたいと思っています。

――― 横須賀は近年、サブカルチャーの聖地としても注目を集めています。客層の変化もあったと思いますが、それについてはいかがでしょうか。

島森さん:ウチは『艦隊これくしょん-艦これ-』のファンが足を運んでくれたのが契機かな。市を通してコラボなどの話もくるようになったので、戦艦にちなんだカレーを出してみたり、『たまゆら』のレトルトカレーを作ったり、『蒼き鋼のアルペジオ』のカレーを作ったりしました。

そういった作品のファンが喜んでくれて、沢山来てくれるようになりましたね。


▲店内には美少女フィギュアも多数飾られている。これらも全て、お客さんに寄贈されたものだそう。

――― 島森さん自身は、サブカルチャーに造詣が深いわけではないと知って驚きました。店内に置かれた大量のグッズを見る限り、てっきりご自身の趣味なのかなと。

島森さん:好きなように飾ってもらっていたら、いつの間にか、ご覧の通りの空間になっていました。こんなおじいさんの店がね、ギャップがあるでしょ。でもそれでいいと思っています。お客さんが喜んでくれて、カレーが美味しかったと言ってくれれば、それでいいんです。

私はお店というものは、お客さんが作ってくれていいと思っている。それは、お店を気に入ってくれているから作ってくれるのであって、通ってくれている証でもあって。

――― 料理人として長い経歴をお持ちの方が、自身の表現の場でもあるお店のインテリアに、いわゆるオタク文化をまるっと許容してくれているというのは、珍しいケースかと思います。

島森さん:正直に言うと私はよく分かっていないのだけれど、アニメだとか、マンガだとか、取り入れようという気運が世間的に高まっているのは確かでしょう。

TVを見ていても、コマーシャルがそういう系統のものばかりだし、世の中がそうしたほうに動いているのだから、柔軟にやったほうが今の時代に合っている。アニメファンの外国人のお客さんが店に来てくれて、嬉しそうに写真を撮っていくことも多いしね。

昔気質なガンコ親父でいても、悪くないかもしれないけれど。料理は信念をもって作っているから絶対の自信がある、ならば他のことは、どんな形でも、お客さんが喜んでくれることが私にとっては一番なんです。


▲航空母艦「赤城」チキンカレーを注文すると、軍艦がデザインされたコースターを1枚プレゼント。


▲ファンに喜んでもらいたいと、コースターもオリジナル品を作った。

――― 最後に、横須賀という街の現状について思うことはありますでしょうか。

島森さん:市の人口減が深刻な問題(※2015年は全国ワースト2位)になっているので、横須賀はいつも何かやっているな、面白い街だな、という印象をもっとアピールする必要があると思っています。どこの地方都市でもそうだと思いますが、やはり一番は観光に力を入れないと衰退してしまう。

横須賀は日本有数の軍港都市で、歴史もあり、海の幸も山の幸もあり、街そのものに本来見どころが満載のはず。沢山の人に横須賀に来てもらって、「いい街だね」と言ってもらえる機会を増やしたいですね。

そのためにまず私が頑張らなきゃいけないのは、お店に来てくれたお客さんに、100%以上の満足をしてもらうこと。飲食で横須賀の魅力を発信する力になりたい。それが市民としての役目でもあると思っています。

筆者の祖父も戦時中は海兵だった経験があり、生前、横須賀に行って三笠を見てみたいとよく言っていた。軍艦に義務として乗ることになったあの頃の10代の若者にとって、40年前に完全勝利を遂げて帰国した戦艦三笠は憧れのヒーローだったそうだ。

その兵器だった戦艦は博物館船として、兵食だったカレーはご当地グルメとして生まれ変わり、歴史と平和の尊さを今に伝える役割も担っている。

そして現在の10代の若者にとって、いまやサブカルチャーはマイノリティーなオタク文化でも何でもなく、むしろメインカルチャーに取って代わる勢いすら見せている。海外の若者に対して、アニメ・マンガが日本を代表する観光コンテンツとなっていることは言わずもがなだ。

時代と歩を合わせて進む「ウッドアイランド」で海軍カレーを口にすると、なんだかそんなことを考えたりもして、人は分かり合える気がしてならない。

【店舗情報】

カフェレストラン ウッドアイランド
■住所:神奈川県横須賀市大滝町1-4
■営業時間:11:30~19:00
■定休日:不定休
■公式サイト:http://woodisland-yokosuka.com/
■公式Facebook:https://www.facebook.com/woodisland/