本記事は、神奈川県横須賀市のご当地グルメ「YOKOSUKA NAVY BURGER(ヨコスカネイビーバーガー)」を提供している飲食店をレポートするシリーズ記事。
今回は、スカジャンの発祥地としても知られる名所「どぶ板通り商店街」に店を構える「HONEY BEE(ハニービー)」!
2009年1月30日(金)、市内4店舗で販売開始された「ヨコスカネイビーバーガー」。同店はその開始4店舗のうちの1軒であり、また、横須賀の地におけるアメリカンレストランの草分け的存在として名高い老舗店である。
米海軍横須賀基地(通称“ベース”)内の食堂でコックを務めていた、先代オーナーの直井陽樹さんが、1968年に独立して創業。
日本国内で初めてアメリカンドッグを販売した店ともいわれており、以来約半世紀、市民と米兵たちに愛されながら、本場アメリカの食文化を発信してきた。
2014年に直井さんが高齢のため引退することとなり、近隣でアメリカンバーなどを運営している「ドブ板Design&Creation株式会社」が経営を引き継いだ。
現在は、同社役員の吉見祐也さんがマネージャーとして店舗を管理し、先代の味を守っている。
店内に一歩足を踏み入れると、まるで映画の中の世界に入り込んだかのよう...!
年季の入った板壁、ヴィンテージ感あふれるシーリングファン、コカ・コーラやコロナビールのネオンサイン、「Wurlitzer(ワーリッツァー)」社製のクラシックなジュークボックス。これぞ“古き良きアメリカンダイナー”といった風情の、趣深いレトロ空間が広がっている。
カウンター席が15席と、テーブル席が2卓の計22席だ。
▲ヨコスカネイビーバーガー レギュラー¥1200-(税別)
じゃーんッ!! これが「ハニービー」の「ヨコスカネイビーバーガー」!!
バンズは創業当時のままのレシピで、市内のベーカリーに特注しているというオリジナル。きつね色にパリッと焼き上げられ、小麦の素朴な風味がふわんと立ち上る味わいは、どこかフランスパンを思わせる。
スライスオニオン、輪切りトマト、フレッシュレタスの野菜3種類が、シャッキリとした食感と共に後口を爽やかに。
粗挽き牛肉を使用したパティはじっくりと火を通して、表面をこんがりカリッと焼き固めるスタイル。実に香ばしく、噛み応えがありつつもジューシーだ。
ベース由来の伝統的な食べ方は、全体を手でぺたっと軽くつぶしてからピンを抜き、上下逆さまにひっくり返して、ヒールバンズ(※下段のバンズ)を取り外す。そして露出したパティに・・・
お好みの分量でケチャップとマスタードをかけたら、蓋をするようにヒールバンズを元に戻し、“ハンバーガーが裏返しになった状態のまま”持ち上げて、あとは豪快にかぶりついて頂く。
これは米海軍艦船の見張り要員が、片手で双眼鏡をのぞきながら、片手だけで食べるために考案された食べ方だそう。
美味しさと同時に軍隊食としての歴史が伝わってくるから、なんだか身体の中を物語が通り過ぎていくようで、胸に湧き起こる感動のカテゴリーが、普段の外食とは別種だ。
仕上げにコーラで流し込めばカンペキ、とのこと。ぷはーッ! 最高だねッ...!
ちなみに、同店では「ヨコスカネイビーバーガー」が計5種類のバリエーションで展開されており、最大サイズの「フリートアドミラル1ポンドネイビーバーガー」は、“Admiral(提督)”の名に相応しいデカ盛りだ。
第二次世界大戦後から米海軍を通じて、様々なアメリカ文化が現在進行形で広がっている横須賀にとって、ハンバーガーは歴史的に所縁の深い食べ物であり、「ヨコスカネイビーバーガー」は一介のご当地グルメの枠を超えた、地域文化を色濃く感じられるグルメブランドとして価値が高い。
「ヨコスカネイビーバーガー」が誕生する40年以上前、ベトナム戦争真っ只中の時代からハンバーガーを販売してきた「ハニービー」が、その提供店舗に名を連ねている意義も大きいだろう。
吉見さんに、界隈を代表する老舗店を継承した想いや、お店の現状などについて話を伺った。
▲吉見さんは横須賀生まれ横須賀育ちの41歳。20代の頃から、「ハニービー」にもよく足を運んでいたとか。
――― まずは、吉見さんが「ハニービー」の運営に携わることになった経緯を教えていただけますでしょうか。
吉見さん:現オーナーであるウチの会社の代表とは高校の同級生でして、「ハニービー」を引き継ぐにあたって、キッチンを手伝って欲しいと頼まれたのがキッカケです。
――― 以前から、飲食業に就かれていた。
吉見さん:もともと私は高校卒業後から、フレンチのコックとして「逗子マリーナ」などで働いていました。
――― 「逗子マリーナ」といえば、湘南随一のマリンリゾート施設。
吉見さん:それから地元に戻って、どぶ板通りの近辺でフレンチレストランを開業しました。今はもう区画整理で物件ごと無くなってしまいましたが、当初は自分の店舗と並行して、「ハニービー」を管理していた感じです。
――― 経営を引き継がれてから、お店のコンセプトに変化を持たせたりは。
吉見さん:まったくの、そのままです。先代オーナーのレシピに記載された細かな分量まで、そっくり忠実に再現しています。“日本人向けにアレンジされたアメリカ料理ではなく、昔からベースの中で食されてきた米兵さんたちの日常食を、アメリカンな空間と共に提供する”。そんな先代の志と共に継承しています。
内装にしても修繕が必要な場合は、極力、面影を残すように配慮して。
▲アメリカンドッグのメニュー表記は「スティックドッグ」。1本1本、衣から手作りしているそうだ。
▲ボリューム満点の「チリドッグ(税別¥980-)」も代表的な人気商品。
▲チョリソーを挟み込んだホットドッグに、スパイシーな自家製チリビーンズがどぅばばばばーッ!!
▲お酒と相性抜群なことは、言うまでもナシ!
――― 「ヨコスカネイビーバーガー」を最初期に販売した1軒であるわけですが、それまでに提供されていたハンバーガーと異なる点はありますか。
吉見さん:大きさが約2倍であるほかは、通常のハンバーガーメニューと、基本的な製法は変わりません。
――― パティも創業当時から、“つなぎ”無しの牛肉100%で。
吉見さん:「ヨコスカネイビーバーガー」自体が、長年ベースで食されてきた伝統的なハンバーガーのレシピを基にして誕生したご当地グルメです。ですので・・・。
――― 理解しました。ということは、1960年代に。
吉見さん:ベース内の食堂でコックをしていた先代は。
――― そもそも、その基になった原典のレシピで「ハニービー」のハンバーガーを作っていた。
吉見さん:おそらく。
――― ですよね。そりゃそうだ。
吉見さん:ふふ。でしょ。
▲パティの焼き上げは職人技。鉄板に真剣な眼差しをおくる吉見さん。
――― パティの表面を、こんがりと焼き固める理由は。
吉見さん:それも多分、赤身肉をしっかりと焼いたステーキ風のパティのほうが、単純にアメリカ人の好みなのだと思いますよ。
――― リアルな答えだと思います。
吉見さん:いわゆる日本人の“焼肉”とは、文化が違いますからね。
――― ハンバーガーを裏返す食べ方も、初めて知りました。ケチャップとマスタードを、最初に多めにつけてしまって。
吉見さん:艦船の見張り要員についた米兵さんは、途中でソースを追加する余裕などありませんから、どこを食べても均等に味がくるように、食べる前の時点で、自分好みに味をキメちゃうんです。
あの食べ方であれば、ヒールバンズが肉汁とソースを吸収してくれるので、食べている途中でベトベトと垂れてくることもありません。
――― 理に適っていますね。バーガー袋を使う必要もない。
吉見さん:ふっふ。バーガー袋だなんて、そんなオシャレなものは使わせないぜ。
――― 現在の客層は、どういった方が中心ですか。
吉見さん:全体的には、観光客の方の割合のほうが高いと思います。もちろん米兵さんも来てくれていますが、年々少なくなっているように感じますね。
――― 近年の横須賀の街に対して、思うことはありますでしょうか。
吉見さん:特にどぶ板通り周辺は、ベースを取り巻く環境の変化もあり、お店が激減してしまいました。
――― その渦中にあって、ずっと変わらぬスタイルで営業されている。
吉見さん:学生の頃に「ハニービー」に通っていたという方が、10数年後にお子さんを連れて訪れてくれることなども多く、やはり世代を超えて愛されているお店だなと実感しています。
そんな風に“戻れる場所”を、「ハニービー」という存在そのものを、残したい想いが強いです。
――― 今後、お店でやりたいことや目標はありますか。
吉見さん:歴史あるレシピを継承させていただきましたので、いずれ他所の“米海軍基地のある街”に、新しい店舗を出せたらいいなと考えています。
――― 横須賀から遠く離れた土地に、「ハニービー」の遺伝子を受け継ぐ店舗ができる可能性もあると。
吉見さん:そうなればいいですね。
▲陽が落ちると、店頭のネオン看板が輝き出す。このアメリカンな巨大電飾は、夜のどぶ板通りのシンボルのひとつ。
――― インタビューは以上です。ありがとうございました。・・・実は私、2~3年ほど前にもお店にうかがっていまして。
吉見さん:そうでしたか。じゃあ、隣はまだ無かったよね?
――― 隣、というと。
吉見さん:地下室があるのです。
――― 地下室!?
吉見さん:休日は行列ができる日もありますので、客席数を増やすために去年作りました。見てみますか。
――― ぜひぜひ。
――― うおおおお、すげえっ!!
吉見さん:全テーブル席で、40席ちょいあります。壁面に飾ってあるヘラジカとバッファローは、アメリカから美術品として輸入した本物の剥製なんですよ。
――― わー、でかいでかいっ!!
吉見さん:頭部だけでもこの大きさだから、スケールが違うよね。
――― こんな地下室、まさに男のロマンです。
吉見さん:秘密基地みたいでしょ。
【ヨコスカネイビーバーガー特集 まとめ記事】
■ご当地グルメ「ヨコスカネイビーバーガー」 全店舗取材レポート まとめ記事
【店舗情報】
HONEY BEE(ハニービー)
■住所:神奈川県横須賀市本町2-1 本町ビル1F・B1F
■営業時間:11:30~late night
■定休日:無休
■公式サイト:https://www.honeybee-yokosuka.com/
■公式Twitter:https://twitter.com/honeybee_diner
■公式Facebook:https://www.facebook.com/HONEYBEEDOBUITA/
■公式Instagram:https://www.instagram.com/honeybee_yokosuka/