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【横須賀】カレー文化を牽引する「横須賀海軍カレー本舗」が目指す観光立市

2019年は、神奈川県横須賀市が「カレーの街よこすか」を掲げてから20周年を迎えた年だった。

幕末から軍港とともに歩んできた横須賀市が、旧日本海軍で艦内食として親しまれていたカレーを地域活性化に活用する、というこの取り組みが始まったのは、ご当地グルメブーム・B級グルメブームが訪れる5年以上前。

いまや全国各地で盛んな「食による街おこし」の草分けであり、推進事業のメインブランドである「よこすか海軍カレー」は、日本一の知名度を誇るご当地カレーといっても過言ではない。

その「よこすか海軍カレー」を提供する市内の飲食店の中でも随一の人気店が、本記事で取り上げる「横須賀海軍カレー本舗」だ。

同店は1Fが横須賀のお土産品やカレー関連商品を販売する物産コーナー、2Fが常時10種類ほどのカレーが楽しめるカレー専門レストラン、という複合型ショップとして、2005年4月にオープン。

レストランのみでも月間来店客数は2500人強、観光客や近隣のオフィスワーカーをはじめ幅広い客層に愛されており、休日は開店前から行列ができる日も珍しくない。

約50坪の広々とした店内は、日露戦争における大海戦で世界に勇名を轟かせた伝説的な戦艦「三笠」(※現在は記念艦として市内の「三笠公園」に保存。世界三大記念艦のひとつに数えられ、2017年に文化庁より日本遺産構成文化財に認定)の士官室をイメージした空間。

ガラス製のシャンデリアや臙脂色のカーテンなど、時に外交交渉の場としての役割も担った連合艦隊旗艦らしい、豪奢で優雅な内装が再現されている。

店内中央に置かれた、船の形のテーブル席には・・・

1/200スケールの、戦艦「三笠」の模型を展示!

「店内BGMは、当時実際に軍艦の中で軍楽隊によって奏でられていた、ワルツやポルカを中心に選曲しております」と笑顔を見せるのは、スタッフの高沢友里香さん。女性スタッフの制服も、明治大正期のカフェの女性給仕を参考にして、クラシックなメイド服風の衣装を採用しているとのこと。


▲よこすか海軍カレー スペシャルビーフ(海軍珈琲付き)¥1380-

看板メニューはもちろん、「よこすか海軍カレー」!

もともとは英国海軍から伝わった兵食の一つであるカレーシチューを、旧日本海軍が日本人向けにアレンジしたものが、現代のカレーライスのルーツといわれている。

明治41年著『海軍割烹術参考書』に記載されている「カレイライス」のレシピをもとに、当時の味を復元した一品が、ご当地グルメ「よこすか海軍カレー」である。

また、海軍のカレーは栄養バランスを考慮して、サラダと牛乳と共に3点セットで提供されるのが戦時中からの習わしだ。

じゃじゃーんッ!!

小麦粉を極少量に抑えて、野菜と果物でとろみをつけたというカレーは、実にまろやかで上品な口当たり。とろっと柔らかく煮込まれた牛肉と、サイコロ状に刻まれたニンジンとジャガイモが、たーっぷりと入っている!

優しくふくよかな旨味、軽快でフルーティーな甘味と酸味、後からピリリと追いかけるスパイスの辛味。そこに、カレー粉のレトロな香りがぷわーっと舞い上がるように広がって、なんともノスタルジックな味わい。心まで穏やかになるような、ほっとする美味しさだ...!!


▲掃海艦はちじょうポークカレー¥1630-

2015年9月から提供中の、「横須賀海上自衛隊カレー」も注目の一品!

「横須賀海上自衛隊カレー」とは、海上自衛隊横須賀地方総監部の協力と認定を得て、各護衛艦で毎週金曜日に食べられている自慢のカレーを、地元の飲食店がレシピに忠実に再現したものだ。

つまり、現在進行形で各艦の隊員が“実際に食べているカレー”をそっくり再現しているという、ひと口食べれば気分は海上自衛隊員!?な、横須賀の新ご当地グルメである。

「横須賀海軍カレー本舗」の担当は、「掃海艦はちじょう」のカレー!

「メストレー」と呼ばれる、海上自衛隊や米海軍が愛用している、ステンレス製のプレート食器に盛り付けられて登場...!

じゃじゃーんッ!!

仕上げにデミグラスソースとチーズを加えているそうで、濃厚でコク深く、豚肉と野菜もゴロンゴロンと大量に入っており、旨味が超満点。ベースとなっている飴色玉葱の甘味と香ばしさが、全体の味に奥行きを与えているのもポイントだろう...!

スプーンを口に運ぶほどに元気が湧いてくるような、まさに海の男のパワフルカレーだ。たまらんなーーーッッ!!


▲島風カレー¥1550-

旧日本海軍で活躍した軍艦をモチーフにした、「軍艦カレー」シリーズも同店を代表する人気商品!

「軍艦カレー」は、実在した軍艦を擬人化・美少女化するという斬新な設定で一世を風靡したブラウザゲーム『艦隊これくしょん~艦これ~』をヒントに、2013年12月に誕生したカレーで、2017年3月には提供5万食を達成。

現在、「島風カレー」「天龍カレー」「金剛カレー」「陸奥カレー」の4種類がレギュラーメニューにラインナップしている。

「島風カレー」にはなんと、15本ものボイルソーセージが、ズラズラズラー!!っとオンザライスッ!!

これは駆逐艦「島風」が海軍艦の中で唯一、5連装魚雷発射管を三基搭載していた史実にちなみ、魚雷に見立てたソーセージを5本×3=計15本トッピングしたもの。

さらに、Z旗(※旧日本海軍が重要な艦隊戦の際に掲揚していた信号旗)をデザインした旗付き爪楊枝も、威風堂々と皿を飾る...!!

そこに合わせるカレーは、「よこすか海軍カレー」とはまた違った味わいの、ビターでスパイシーな特製ビーフカレー!

じゃじゃーんッ!!

ぶっといソーセージ魚雷が次々と胃袋を直撃する超ボリュームで、食べ応えが半端じゃない。だからー、満腹感からは、逃げられないって!

こうした高いエンターテインメント性で、日本人のみならず外国人観光客の来店も増加しているという「横須賀海軍カレー本舗」。

そんな同店を運営する「横須賀カレー本舗株式会社」の代表取締役社長を務める鈴木孝博さんは、「よこすか海軍カレー」関連のプロデュースを多岐に渡り手掛ける「株式会社ヤチヨ」の代表取締役社長でもあり、「カレーの街よこすか」をPRする事業者団体「カレーの街よこすか事業者部会」の副部会長でもある。

他にも社外の要職を複数兼任し、横須賀のカレー文化を牽引する1人となっている鈴木さんに、“カレーの街”の事業や地元に対する想いについて話を伺った。


▲鈴木さんは横須賀出身、横須賀在住の54歳。「横須賀市観光協会」の副会長、「よこすかカレーフェスティバル」の実行委員長なども務められている。

――― まずは、「横須賀海軍カレー本舗」開店の経緯を教えていただけますでしょうか。

鈴木さん:1999年5月の“カレーの街”宣言から数年経っても、京急横須賀中央駅の近辺に、観光客に対してアピールできる施設が何もない、というのが当時の一つの課題でした。そこで、ウチを含めた9社の合同出資で、アンテナショップ的な店舗と、その運営会社を作ろう、と。

事業者部会の部会長から「一番若いんだから、社長は鈴木君にまかせた!」と言われた時には、「ええー!?」となりましたね。

――― 開店当初から、現在のようなスタイルで営業されていたのですか。

鈴木さん:1Fは今とほぼ同じ形の物産コーナーでしたが、2Fのレストランはごく普通の“街の洋食屋さん”っぽい感じでした。内装を「三笠」の士官室風にリニューアルしたのは、2012年7月です。


▲1Fの物産コーナーには、レトルトカレーをはじめ多種多彩なご当地商品が並ぶ。カレーカステラやカレーマドレーヌ、カレーチョコレートといった変わり種も。


▲「カレーの街よこすか」の公式マスコットキャラクター、カモメのスカレーちゃん。


▲階段を上がった2Fがレストランだ。

――― 「横須賀海軍カレー本舗」の開店以前から鈴木さんが経営されている「株式会社ヤチヨ」は、どのような事業を営む企業なのでしょう。

鈴木さん:もともとは母方の親戚が1983年に久里浜で起業した、製麺製造業の会社でした。1980年代はまだ街に“なんとかストア”的な、地元の食品を取り扱う商店が沢山あって、そういったお店にうどんやそばを卸していたんです。やがて全国展開のスーパーやコンビニエンスストアの進出で売れ行きが厳しくなり、1990年に私が会社を引き継いでからは、業務用の食材卸を営む会社へと事業転換しました。

――― 2003年からはFC(フランチャイズ)ビジネスも展開されています。

鈴木さん:首都圏を中心に、「TULLY’S COFFEE(タリーズコーヒー)」や「やきとり〇金」といった飲食店を運営しています。

FCビジネスに着手する前には、横須賀市内でビストロなどを数店舗、直営していた時期もありました。2001年に開館した「横濱カレーミュージアム(※カレー専門のフードテーマパーク。2007年閉館)」に出店していた「ブラッスリー ぐーるMAN」も、その内の1店舗なんですよ。

――― 私は地元が横浜でして、カレーミュージアムには何度か足を運んだ記憶があります。

鈴木さん:本当ですか! もしかして、「ぐーるMAN」にも来てくれた?

――― いや、「ぐーるMAN」には・・・。

鈴木さん:ええー!?


▲現在の「ヤチヨ」本社は、「横須賀海軍カレー本舗」から徒歩数分の場所にある。

――― 「ぐーるMAN」は「よこすか海軍カレー」の地域代表として出店されていましたが、そもそも「ヤチヨ」が“カレーの街”の事業に携わることになったキッカケとは。

鈴木さん:企画が立ち上がった際に、市役所から「ご当地カレーでの街おこしを考えているので、民間の食品会社としても何か商品を作ってくれませんか?」と、相談を受けたのです。

――― なぜ、引き受けられたのでしょう。大きなビジネスチャンスを感じた、とか。

鈴木さん:むむっ、それはね。

――― はい。

鈴木さん:お付き合いで、仕方がなく。

――― ありゃ。

鈴木さん:わはは。

――― わはは。

鈴木さん:あくまで、スタートはね。だって「よこすか海軍カレー」だなんて、今だから誰もが普通に言っているけれど、「海軍」って名前をつけていいのかな!?とか、正直なところ、半信半疑でしたよ。

ただ、本気で「市をあげて、食による街おこしをやろう!」という気概は伝わってきたので、私個人としても、地元を盛り上げるのに一役買いたいなと。

――― そうして「カレーの街よこすか事業者部会」が15社の加盟により発足し、官民一体での街おこしプロジェクトが始動します。当時、苦労されたことなどはありますか。

鈴木さん:最初に作った商品はレトルトカレーだったのですが、色々なメーカーさんに製造を断られ続けて。やっと、箱ナシの状態でなら1ロットあたり2000パックで作ってくれる工場が見つかって、裸の状態のレトルトパウチを仕入れて、自社で製作したパッケージに、社員総出でひとつひとつ手詰めしていました。

――― なんと。

鈴木さん:あとは「海軍」というネーミングに感じた不安も的中してしまって、不要なトラブルやクレームを避けたいからと、なかなか大手百貨店では取り扱ってもらえませんでしたね。

鈴木さん:とはいえ、第1回目の「よこすかカレーフェスティバル」では、嬉しい誤算というか、レトルトカレーが爆発的に売れて完売したので、商機はあるはずだと。

地道な営業活動を続けた結果、セブンイレブンやサンクスといったコンビニエンスストアとの取引が決まったりと、徐々に地域ブランドとして確立させることができました。

――― “カレーの街”の事業が成功した、一番の要因は何でしょう。

鈴木さん:やはり、自治体と民間がしっかりと相互協力をしながら、同じ方向を目指して進んできた、ことが最大の理由だと思います。他市から視察が来ると、「市役所がここまでPRしてくれるの!?」「商工会議所がパンフレットまで作ってくれるの!?」と色々と驚かれることが多い。

おかげさまで20週年を迎えても、勢いを落とさずにやってこれています。


▲横須賀中央駅に設置されている、スカレーちゃんの像。

――― 他にも「横須賀海上自衛隊カレー」や「ヨコスカネイビーバーガー」など、食における街おこしが盛んな横須賀ですが、観光面で課題に感じていることはありますか。

鈴木さん:横須賀は自然が豊かで、食材の宝庫でもあり、資源に恵まれているはずなのですが、この街に来ても、1日中は遊べないんです。観光の目玉となる、“大きな柱”がない。

――― 目玉ですか。たとえば、鎌倉なら神社仏閣とか。

鈴木さん:ない。ないんです。秋山さんは横須賀といえば、何だと思います?

――― うーん、基地です。

鈴木さん:そう。そうなっちゃうんですよ。

――― なりますね。

鈴木さん:もちろんそれで良いんですけれども、それだけだと、基地周辺の中心市街地しか潤わない。追浜や衣笠、浦賀、久里浜、相模湾に面した西海岸地区などには関係が無い。

“点”で終わらせず、もう少し“面”で、横須賀全体を良くしていかなきゃいけないな、と感じています。

――― 横須賀は近年、サブカルチャーの聖地としても注目を集めています。「横須賀海軍カレー本舗」でもコラボレーションを多々おこなっていますが、それについてはいかがでしょうか。

鈴木さん:先ほどの話とリンクしていて、新しい層へアピールできるという意味で、サブカルは非常に大きいです。『艦これ』から始まって、最近では『ワンピース』や『ハイスクール・フリート』と横須賀市のコラボイベントなど、カレーと同じく、行政と連携して集客に取り組んでいる。

これからもガンガン続けていきたいですね。


▲店内では“艦娘”のポップと海軍帽を無料で貸し出しており、記念撮影に使用可能だ。


▲島風カレー、砲雷撃戦入ります!


▲レジ前には、ファン同士の交流ノート“提督日誌”も。

――― 多方面で横須賀の発展に尽力されている鈴木さんですが、最後にあらためて今後の目標、抱負をお聞かせ下さい。

鈴木さん:横須賀市は人口減が深刻な問題(※2018年2月、約41年ぶりに40万人を下回った)となっていますが、それは全国的な事象でもあるし、よほどの大規模開発でもしない限り、地方都市が定住人口を増やすのは難しいと思うんですよ。

だから、交流人口を増やしていくしかない。そのためにはより一層、観光事業に力を入れるべきだと考えています。“オールヨコスカ”で街を盛り上げていく体制づくりと、街の魅力をアピールする施策を積極的に打っていくことが大事。

自分の会社も自宅もココにありますから、逃げるわけにはいきません。もっと横須賀に賑わいを創出できるように、頑張っていきたいです。

実は、筆者が初めて「よこすか海軍カレー」を食べたのも、何を隠そうこの「横須賀海軍カレー本舗」である。以降、施設やイベントの取材をしたり、プライベートでも散策や買い物に訪れたりと、横須賀の魅力にどっぷりとハマってしまった。

背景にある街のストーリーを、カレーを通じて伝えることで、未来のストーリーを紡いでゆくのが、“カレーの街”のプロジェクトの本質であるならば。「横須賀海軍カレー本舗」という存在が、地域と人を、そして人と人を繋ぐ、可能性の扉となっていることは間違いない。


▲横須賀海軍チキンカツビッグカレー砲¥2320-

ちなみに同店には、「横須賀海軍チキンカツビッグカレー砲 Featuring戦艦三笠」という、総重量約2kgのデカ盛りメニューもある。

横須賀は楽しいぞ。

【店舗情報】

横須賀海軍カレー本舗
■住所:神奈川県横須賀市若松町1-11-8 YYポート横須賀
■営業時間(2Fレストラン)
平日:11:00~16:00(L.O 15:30)
土・日・祝・夏季:11:00~20:00(L.O 19:30)
■営業時間(1F物産コーナー):9:00~19:30
■定休日:無休(※1月1日~1月3日を除く)
■公式サイト:https://yokosuka-curry.com/