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【インタビュー】休刊する秋葉原No.1のフリマガ「1UP」編集長に、リアルな街の現状と展望を聞いた

隔月刊行で発行部数は10万部、配布部数・エリアともに秋葉原No.1を誇っていたフリーマガジン「1UP(ワンナップ)」が、今年6月10日(土)発行の第17号をもって休刊した。

Web版のニュースサイト「1UP情報局」は継続するとのことだが、アキバのランドマーク的存在である「秋葉原ラジオ会館」の館内誌「ラジ館」を前身とし、おそらく知名度においてもNo.1だったであろう地域情報誌の休刊を惜しむ声は多い。

オタクの聖地と呼ばれ、日本有数の観光地ともなっている秋葉原の街ではここ数年、華やかなイメージとは裏腹に、かつて“電気街”を形成していた小売店を中心に閉店ラッシュが起こっている。その急流が、地元密着型のメディアもまた、例外とせずに飲み込んだということなのか。

筆者は休刊が発表された当月、6月中旬のとある昼下がりに、秋葉原にある喫茶店でインタビュー用の機材を手にしていた。対面には、創刊時から同誌「1UP」編集長を務める佐藤星生さんが座っている。

3時間ほど話し込んだだろうか。

「1UP」の裏側、秋葉原の街のリアルな現状や今後の展望、またメディアのあり方についてなど、伺ってみたい話が山ほどあった。

――― 本日はお忙しい所、ありがとうございます。何度かご挨拶はさせて頂いておりましたが、こうしてちゃんとお話しを伺うのは初めてというか。休刊という大事に関する聞き手が、私で申し訳ないというか。

佐藤さん:いやいや、とんでもないです。確か以前、ラーメン屋の「noodles shop WATARU(※2016年閉店)」さんが、バナナをまるごと突き刺した、チンコパフェ的なデザートメニューを販売していましたよね。

――― ありましたね。

佐藤さん:それに秋山さんが大量の白濁液(※トッピングの練乳)を垂らしながら、鬼の形相でカメラを構えているのを見て、この人は狂っているけれど凄いなと思って。

――― あの時私、会話をかわした相手が佐藤さんだとは知らなかったんですよ。背後から「一緒に撮ってもいいですか」って、とても丁寧な口調で声をかけられて、「どうぞどうぞ」って返事を返して。

佐藤さん:ふふ。

――― チンコパフェ以外の撮影も全て終えてから店長さんに聞いたら、「さっきの人、1UPの編集長さんですよ」って。・・・そうだ、それが最初にお会いした日ですか。

佐藤さん:ですです。なんだか懐かしいな。僕はあの日は、店員のコスプレイヤーさんを取材するのが目的で訪れていて、先方の準備のあいだ待機していたら、まさに“チン妙”な光景が目に飛び込んできて。

――― “チン奇”なファーストコンタクトでした。

――― まずは「1UP」休刊ということで、私も秋葉原を訪れた際には必ず街頭で頂いて拝読しておりましたので、非常に残念に思います。

佐藤さん:本当にありがとうございます。すみません。休刊のお知らせを出した時には、「ハハッ、結局アレ潰れたか」みたいな冷たい反応が多いだろう、という怖さを抱いていたのですが、読者の方々から沢山の温かいメッセージを頂きまして。

――― 知名度の高い「秋葉原ラジオ会館」の媒体を前身とされているだけに、全く別のブランドとしてイチから「1UP」を立ち上げるのは、大変な苦労もあったとお察しします。

佐藤さん:僕を含めた編集制作部だった3人、本当に秋葉原が好きなオタク達だけで、オタクの気持ちで作る媒体として立ち上げましたので、休刊という結果にはなりましたが、「残念だ」という声はとても嬉しくて。

――― 休刊を決定された時期というのは。

佐藤さん:5月末です。

――― では、結構急な決定で。

佐藤さん:急でしたね。本当は最新号には、告知も掲示しない予定だったのですが。

――― 「1UP」の読者層は、どのような方だったのでしょう。

佐藤さん:手に取ってくれる人の約8割は、観光客の方でしたね。あとの約2割は、普段から秋葉原に通われている方です。

――― 観光客の方の中に、外国人の方の割合は。

佐藤さん:正確なデータはありませんが、2割程度だと思います。映画のプロモーションで来日した某ハリウッドスターが秋葉原に立ち寄った際に、「アキバでOtakuグッズをゲットしたぜ!」という写真をSNSに投稿されていて、その中に「1UP」が映っていたこともありました。感慨深かったな。

――― 観光客をメインターゲット層に据えた、コンテンツ作りを意識していたのですか。

佐藤さん:観光客向け、と割り切ってはいませんでしたが、実際に手に取ってくれるのは観光客の方の割合が高かったです。ですので、程よくライトに、程よくマニアックに、とバランスを意識していました。

――― それは、さじ加減が難しそうな。

佐藤さん:そうなんです。観光客向けにライトすぎてしまうと、普段から秋葉原に通う方には退屈な内容になってしまいますし、マニアックすぎると観光客の方は受け入れ難い。

観光客向けのお店ももちろん紹介しますが、できれば自然発生したアキバカルチャーと言いますか、昔から秋葉原に根付いている店舗も知ってほしいなという思いがありまして。

――― はい。

佐藤さん:例えば先日も、他県に住む友人が秋葉原に観光に来ていたそうで、どこに行けばいいのか分からなかったから、駅前でビラを配っていた店員さんについて行った、と。

――― 観光で来る方は、そのパターンが大多数だと思います。

佐藤さん:ですよね。1回目はそれでいいと思うのです。足を運んで、全体的な雰囲気だけ知ってもらえれば。

――― 2回目以降に。

佐藤さん:もう少しディープな場所に行ってみよう、となった時に、やはり一般的な観光誌の情報だけでは浅い。

――― また似たような体験しかできなければ、3回目が無い可能性は高いですね。

佐藤さん:僕は麻雀が好きで、出張などで地方に行くと、必ずフリー雀荘で情報収集するようにしているんです。

――― なぜ、フリー雀荘で。

佐藤さん:フリー雀荘では知らないおっちゃん同士で、小さな卓を4人で囲むことになります。それはある意味、“同じ趣味で繋がった4人”になるので距離感が縮まりやすく、自然と会話も始まるんです。「お兄さん、初めて見る顔だけどイイ打ち方するね」なんて。そのうち、「この辺で美味い店あります?」「あぁ、あそこの定食屋がエエで!」みたいな。

制作側の人間としては、“地元の人に聞き込んだ情報から浮かんだ店が、観光客が2回目以降に本当に行きたい店であろう”と確信していますので。

――― なるほど。

佐藤さん:秋葉原でメディア活動を開始した際にも、まずは“普段から秋葉原にいる人がどこに行くのか”を聞き込んで回りました。

――― ブン屋さんだ。

佐藤さん:ええ。実はもともとの出身がブン屋のようなもので、大学在学中に4年間、編集プロダクションで修業させてもらってから、新卒で出版社の政治経済雑誌の配属になりまして。

――― そうでしたか。

佐藤さん:そこで6年ほど、政治家や企業CEOのインタビューなどをしていました。そしてインタビューの仕事を終えたその足で、秋葉原のメイド雀荘に寄って麻雀をしてから、家に帰るような生活を送っていました。

――― 冗談のような振り幅。

佐藤さん:根底がオタクですので、選挙取材がある日でも「コミックマーケット」の日程と被ろうものなら、睡眠時間を犠牲にして両立させて。

――― 戦場から。

佐藤さん:戦場へと。

――― 根底がオタクとおっしゃいましたが、いつの頃から。

佐藤さん:もう、筋金入りのオタクです。中学2年生の頃にはコスプレイヤーのカメコ(カメラ小僧)として目覚めていまして、10代当時は学ランのままイベントに足を運んで写真を撮影したり。

――― では、当時から秋葉原にも。

佐藤さん:中学高校ともに両国にある学校に通っていましたので、放課後のたまり場が大体、ヤンキーの連中は錦糸町、オタクの連中は秋葉原、と相場が決まっていたんです。「秋葉原ラジオセンター」にもよく、電子パーツを買いに来ていて。

――― 10代にして電子パーツですか。

佐藤さん:物理部に所属していましたから。大人に混じって、配線材料などを物色して。

――― デジタル時代に、しかも秋葉原という日本一の電脳街における、アナログな紙媒体の役割として、何に重きを置いていましたか。

佐藤さん:紙媒体はどこも厳しい時代です。まず前提としてフリーマガジンのビジネスモデルは広告ですので、広告をいかに広告っぽく見せないか、に我々編集部員は注力していました。ひと昔前の「週刊ファミ通」のような、ごちゃごちゃっとした情報が、わーっと入っている内容にしようという方針のもと。

――― 私が中高生の頃に愛読していたファッション雑誌などは、現在ではファストファッションブランドの広告だらけになっています。いや、ファストファッションを愛用はしていますけれども。そうじゃないでしょ、という思いが。

佐藤さん:そうして結局、読者が離れてしまっては元も子もありません。採算面を考慮しながら、アキバ専門かつ全年齢向けの内容にするためには、様々な葛藤もありました。そこで「1UP」の場合は、地図をウリにしたんです。

――― 通称、“秋葉原まるわかりMAP”ですね。

佐藤さん:毎月社内全員で秋葉原の街をローラー作戦で回って、「ここに新しい店ができたな、ここの店名が変更されているな、ここは閉店してしまったな」と、完全アナログでチェックしていました。Excelの縦60行ほどのリスト×3枚分を、全員で協力して作成して。

一般的なフリーマガジンでは広告を出稿してくれた事業者だけを地図に掲載しますが、それでは“まるわかりMAP”にならないからと、リサーチした約1000店舗のデータを全て掲載しました。

――― MAPがメインの媒体であった、と。

佐藤さん:これがなぜかというと、僕自身も地方や国外に旅行に行った際に、お店から次の目当てのお店に行くとき、もしくは駅に戻りたいときなどに、実物の大きな地図をババッと両手に広げて眺めたほうが、スマホの小さな地図よりも、全体の位置関係が一瞬でつかめて便利に感じるんです。

――― 確かに。初めて旅行する土地では、なおさらです。

佐藤さん:「今はスマホで地図を見る時代。紙なんかでは見ないでしょ」と思われがちですが、旅行のガイドブックにしたって、最終的に一番役に立つのは付録の地図でしょう。「1UP」ではその部分を推進しました。

――― まさか、足を使って調査していたとは。

佐藤さん:正直、めちゃめちゃに仕事量が多くて、費用対効果の低い作業が多かったです。加えてフリマガの配布場所も、秋葉原エリアで約300ヶ所あるのですが、収納スペースなどの関係で、1回目の配送では10万部の半量を配布するのが限度なんです。2回目以降の補充は配送業者さんには依頼せずに、定期的に編集部員がチャリンコを漕いで回って追加していました。あ、今日もさきほど。

――― なんと。

佐藤さん:負担は大きいですが、秋葉原のお店の方々、特に昔からの老舗店の方々は、実際に顔を見せたり挨拶をすることで親近感を持ってくれたりもします。アナログな巡回には、各店舗との親交を深める、という意味合いもありました。

――― “街の情報誌”のあり方として、本来の真っ当な道であると思います。

佐藤さん:そうした経験を積むことで僕ら「1UP」のメンバー1人1人が秋葉原のスペシャリストになって、“アキバアンバサダー”とでも言いますか、コーディネーターとして紹介できる立場になれればいいなと。

――― では紙媒体と、Web媒体「1UP情報局」を同時運営していた意味というのは。

佐藤さん:僕が特に気にかけているのは、20時以降の秋葉原の様子です。観光客がまだまだ大勢いるのにも関わらず、中央通り沿いで営業している店舗は、ゲームセンターと「ドン・キホーテ」と、ほか数軒のみ。1本裏道に入れば、少し遅くまでやっているメイド喫茶だったりBarだったり、面白いお店も沢山あるのに、大体の観光客が中央通りを往復するだけで帰ってしまう。

――― 夜の秋葉原は、日中の喧騒が嘘のように静かになります。

佐藤さん:やはりそれを見ていると、ちゃんと魅力を訴求してあげたいなという気持ちが強くて。なかでも“雑居ビルに入る楽しさ”というのを、秋葉原では是非体験してほしい。なかなか夜の雑居ビルというのは、怖くて入りづらい印象が先に立つので、誌面では伝わりにくい情報や雰囲気を、Webで補完できればと考えていました。

――― いまや日本を代表する世界的観光地となっている秋葉原を、メディア目線でも個人目線でも見続けている佐藤さんにとって、秋葉原の街の魅力というのは。

佐藤さん:僕は中高生の頃から20年以上秋葉原に通っていて、今の住まいも秋葉原エリア内。それくらいこの街が好きです。

万世橋を神田方面に渡って左手側に、「FAL(ファル)」というオーディオ屋さんがあるのをご存知ですか。

――― 私は、お店の前を通ったことしか。

佐藤さん:そこに、スーパーマリオみたいなビジュアルのおじいさん店主がいるんです。ヒゲをたくわえていて、白衣を着ている。

――― スーパーマリオみたいな。

佐藤さん:そう、スーパーマリオみたいな。

――― スーパーマリオですか。

佐藤さん:いや、白衣だからドクターマリオか。

――― ドクターマリオみたいな。

佐藤さん:そう、ドクターマリオみたいな。初めてお店をのぞいた時に、向こうから「入っておいでよ、いい音を聞かせてあげるよ」と声をかけてくれて、「えっ、いいんですか」と、周囲に大きなスピーカーが何台も並ぶソファに座らせてくれて。

――― おおっ。

佐藤さん:そこでクラシック音楽を聴かせてもらうと、パイプオルガンの音なんて、もう本当に教会の楽廊から響いているようで。感動して値段を尋ねてみたら、100ウン十万円だよと。買えるワケがないよ、って話なのですが。

――― おおぅ。

佐藤さん:店主さんに詳しく話を伺うと、ご自身がやはり筋金入りのオーディオオタクで、若い頃から自分でオーディオの開発までしていて。今の世の中でもまだ、本当に好きでこういった仕事をしている人がいるんだな、と知った時に、生き様としてカッコイイなと思ったんです。

同じように趣味と情熱によって生まれた、電子パーツ屋、中古パソコン屋、ゲーム、アニメ、メイド系などなど、ひとつのエリアでこんなにも、多種多彩なジャンルの店舗が存在する街は、日本でここしかありません。時代やブームと共に移り変わったカルチャーの積み重ねが、ぎゅっと地層みたいになった街だと思うので、ただひと回りするだけで楽しめる。

それが魅力です。

――― すみません、次は前置きがえらく長いのですが。

佐藤さん:どうぞどうぞ。

――― ウチはアキバ専門のメディアではありませんし、私自身も秋葉原で働いたことはない、住んでいるわけでもない、出身地も東京23区内ではなく横浜市内、またオタクでもありません。

佐藤さん:はい。

――― むしろオタクと真逆の気質というか、特定のものに入れ込まないし、収集癖がまるでない、ガジェット系にも疎いし、ゲームも全然しない、アイドルには興味ゼロ、『ワンピース』のコミックスで毎刊泣いている人間です。

佐藤さん:あはは。いいじゃないですか。

――― 秋葉原に足を運び始めたキッカケは、10年以上前、当時劇団に入っていまして。稽古場が巣鴨にあって、横浜の最寄駅から巣鴨に通うのに、JR山手線が描く円の右側をつたっていくんですね。その電車賃が、3ヶ月定期で7万円強かかりまして。

佐藤さん:うひゃあ。

――― 「こりゃ、稽古が休みの日にも定期券を使わなきゃもったいない!」と思って、新橋駅から徒歩圏内にある築地市場の食べ歩きを始めて、その流れで秋葉原の飲食店にも足を伸ばしたんです。それが、なぜだか次第に秋葉原駅で下りる回数のほうが増えていって。

佐藤さん:やはり、なにか気になる街だな、という想いを心のどこかに抱いたのでしょうね。

――― そうなんです。多様性に富んでいて、雑多で、妖しい宝箱みたいな、「ここに来れば何かがありそう」という魅力が秋葉原の街に感じられて。陳列されている商品の用途などさっぱりでしたが、ただ単に街を眺めて回るだけで楽しかった。

佐藤さん:うんうん。

――― そして進歩なく、いまだに陳列商品の用途がさっぱりな私は、今でも秋葉原の街に対して“観光客”の感覚なのです。店舗取材なども多々させて頂いておりますが、感覚としてはずうっと一般観光客。それだけに、“アキバ民”としてではなく、観光客目線の俯瞰で街を見続けています。

佐藤さん:なるほど。

――― 本題です。そんな、“昔はよかった”という感傷を持たない私からしても、ここ数年の秋葉原の街は個性的な小規模店がどんどん消え去っていて、秋葉原を“アキバ”たらしめていたアキバカルチャーが、ゆるやかに確実に死んでいっているように感じるのです。佐藤さんは、街の現状をどう捉えていらっしゃるでしょうか。

佐藤さん:うーむ・・・、おっしゃる通りですね。やはりまずは、日本全体の経済的な側面から言って、仕方がないかなと思います。スマホの普及で中古パソコンが売れる時代では無くなった、パーツも右に同じく。家電ですら通販で買うのが一般的になってしまった。美少女ゲームなどは店舗限定特典をつけて差別化を図っていたりもしますが、わざわざ秋葉原の実店舗で買うメリットがどこまであるのか、と考える時もあります。秋葉原の街といえど、時代の流れまでは止められない。さらに観光客の急増で、賃貸物件の家賃も上がっています。

あそこの(ピー)の賃料、知っていますか。末広町寄りの(ピー)だけで、月々(ピー)円らしいですよ。

――― なっ。あそこの(ピー)じゃなくて、(ピー)だけで。たしか販売していた(ピー)は、1つ(ピー)円程度ですよね。

佐藤さん:どれだけの(ピー)を売れば、利益を上げられるのだろうと。

――― 計算する気すら起こらない。

佐藤さん:また、長年続くお店が入っているビルほど、建物自体が古くなっています。ビルの所有者側の判断で取り壊しが決定して、やむなく移転閉店となっても、じゃあ新しいビルが4年後に建てられたとして、その店舗が再び出店できるかというと、難しいだろうなと思っていて。

――― そう思います。

佐藤さん:例えば(ピー)が入っているビル、あそこの賃料、聞きましたか。

――― 聞きました。完全にホラーです。

佐藤さん:あの金額を出せるのは、他の複数の街でも成功している事業者じゃないと不可能です。一般のお店、特に個人経営店が、どんどん参入しづらい街になっている。そう考えると、「秋葉原にしかないお店」は減ってくるんだろうなと。

――― オタクの聖地という”アキバブランド”のうま味を目当てに進出したはずの企業が、アキバブランドを形作っていた小規模店を淘汰してしまうことで、アキバブランド自体が失われてゆく本末転倒。

佐藤さん:まさしく。いずれ何もかもが無くなってしまうのではないかと、本気で心配です。

――― そうなると、近いうちに観光地としてすら成立しなくなるのでは。

佐藤さん:僕もその懸念は当然あって、今の秋葉原には以前のごちゃごちゃ感、うっそうとしている感じ、男子校みたいなあの感じはすでに無くなっていると感じます。むしろ「中野ブロードウェイ」のほうが、ひと昔前のアキバ感がある。

ですがそれは、たぶん僕らが考えるオタクのイメージから、オタク自体が洗練・・・じゃないけれども、スマートなオタクが増えていることを反映しているのではないかなと。ホテルもばんばん建っていますし、さすがに50年後は分かりませんが、当分のあいだ観光客の数は減らないとは思います。

――― なるほど。

佐藤さん:なんにしても現状の秋葉原は、「みんなで一致団結して、1個になって盛り上げていこうぜ!」というイベントがないのが課題です。街全体を使い切れていない。

――― 確かに「神田祭」くらいですね。

佐藤さん:もともと秋葉原にはそういった文化が無かったので、根底の部分で、戦後の闇市の体制のままというか、各個バラバラなのが変わっていない印象です。

――― 多様性がアダになっている。

佐藤さん:そこが改善されれば、また流れも変わってくれるのかなと。

――― 近年はSNSの発達で1人1人の個人が情報メディア化しています。なかでも秋葉原は、個人で情報発信されている方が日本一多い街だと思います。特にTwitterが顕著ですが、それを発信者同士で確認しあっているので、メディアであろうと速報性ではかなわないと感じています。では、その状況の中で、Webメディアの存在意義とは何でしょう。

佐藤さん:いい課題ですね。同じく、秋葉原は日本一、個人発信の情報が多い街だと思いますし、ファンがいてリスペクトされている方、写真がプロなみにきれいな方もいます。スピードでは勝てないなと思います。

この議論は難しいのですが、やはり、クオリティで差別化するしかないと思っています。許可をとって取材するのと、ゲリラで趣味の延長戦上でやるのとでは、確実に違いが出る。情報の蓄積量、どこを公にしてどこを隠すのかの判断、深堀り、といった部分では絶対に負けない自信があります。

――― 果たしてクオリティが求められているのか、という懸念もあります。10代の若年層は完全にスマホがメインで、パソコンを所持すらしていない人も多い。長文は避けられる傾向にある。

佐藤さん:そうなんですよね。でもやっぱり、確かなソースになれる、しっかりとした一次情報源を示していくことが、Webメディアの意味かなと思います。どちらも必要だと思うんですよ。メディアもないとダメだし、一般ユーザーの口コミもないとダメだし。

――― 私は現地に足を運んでしっかりと取材するメディアは、絶対に必要だと思っています。どこの誰が書いたとも分からない真偽の定かでない情報が、簡単に拡散されてしまう問題もある。個人経営店に対する嘘八百の悪評が流されたとして、もし嘘があばかれなければ、経営者の人生そのものを潰してしまう可能性が大いにある。

佐藤さん:本当にそうです。人生を潰してしまう可能性がある。私も「ネットで見た情報だけで言わないでくださいよ」という経験がありますので。

まとめ系のバイラルメディアにしても、ほんとザマアミロと思ったんですよ。・・・あ、大丈夫ですか、秋山さんは書いていなかったですか。

――― 結論から言うと、一時期だけ1社で書きました。というのも経緯がありまして。

佐藤さん:わくわく。

――― まず、あの手のまとめ系パクリサイトが出現し始めたばかりの頃、つまり社会問題になる2~3年前ですね。当時のウチのサイトは画像にウォーターマーク(※権利表記の透かしテキスト)を入れていなかったこともあり、「RETRIP」「ギャザリー」「Find Travel」「NAVERまとめ」「MERY」などなど、把握しているだけでも20以上のバイラルメディアにパクられまくりました。画像だけで計1000点弱かな。

佐藤さん:うわ。

――― 徹夜で丸2日を費やして、掲載禁止要請とパクリの該当箇所を指摘したメールを送ったりもしましたが、返信すらしてこないメディアが多かったです。というのも、まだ当時はインターネット全体に、そして見ているユーザー側のほうにも、「画像のパクリなんて犯罪じゃないか!」と問題指摘する意見自体があまり無かったのです。叩く側にビッグネームがいなかったので。

佐藤さん:初期の頃はそうだったかもしれません。

――― おまけにパクリ記事を書いたライターから、「厳重に保護していないほうが悪い」と逆ギレしたメールが日々送られてくる始末。大手企業があまりにも堂々と運営をしているので、このままインターネットはこのパクリ体制が標準に、常識になってしまうのではないかと本気で思いました。そのタイミングで某社から、「ウチはオリジナルコンテンツをメインにしますから」と、新規バイラルメディアの立ち上げライターとしての誘いがきました。

佐藤さん:ほうほう。

――― これはもう内部から仕組みを知るしかないと考えて、誘いを受けました。ただ私が書く記事は全て、ウチのサイトに掲載しているお店のレポート記事と、そのお店に直接使用許可をとって、公式サイトから引用させてもらったコンテンツをMIXして再編集する、という手法の記事だけにしたのです。

佐藤さん:すばらしい。

――― やると言った手前、1記事も書かないわけにもいかないので。結局、掲載したのは全部で10記事ちょいですが、その中で1番バズった記事は単体で50万PVを超えまして。

佐藤さん:すごい。

――― その収益がわずか(ピー)円です。

佐藤さん:うわっ。ホラーだ。

――― その間にも、他社のバイラルメディアからはサイトの画像がパクられ続けて、パクリ記事のシステムを真似する個人ブログまであらわれて。無断使用される事案が後を絶ちませんでした。

佐藤さん:ひどすぎる。

――― なので私も、問題提起してくれた方がいたおかげで、今はわりと環境が改善されたなと、ほっとしています。話が脱線して申し訳ないです。

佐藤さん:いえいえ、興味深いお話でした。

そうしてパクリのみで構成された記事が紛れていても関係なしに、一般ユーザーは検索をしてパッと表示されたものをなんとなく見る、というのは今後も変わらないでしょう。だからこそ、クオリティ重視でちゃんと書きたいですね。

たぶん取材される側も、コントロールの効いたメディアに報道してほしい、という気持ちのほうが大きいと思うのです。ほら、店内の掃除をしきれていない場所とか、パッケージに傷のある商品とかも、撮影時に配慮したり、工夫して編集するじゃないですか。

――― そこに気付いてくれたら涙出ます。

佐藤さん:記者とかライターを専業にする人でも、意識の低い人が増えてきたと思うんです。垣根がなくなってきたのかなとも思いますが。

僕が雑誌の後にWeb媒体の会社に移った時には、ボスから「タイトルと写真だけで勝負しろ」とさんざん言われました。ユーザーは記事ページを開いた瞬間、0.5秒で見るか見ないかを判断する。ファーストビューの写真にどれだけ引きがあるか、タイトルを過激にできるか、内容など短くてもいい、と指示されて。僕はこれでいいのかな、しっかり報道したいのにな、と悩んで。

――― はい。

佐藤さん:たぶん今いるライターの多くは、編集長に赤ペンで原稿を真っ赤にされて、ぐしゃっとされて放り投げられて、っていう経験なんて持っていないと思うんですよ。スパルタを受けろということではないですが、何日も徹夜して泣きながら文章を修正した経験はないと思う。

――― 耳が痛すぎる。

佐藤さん:え、いやいや秋山さん、違うんですよ。マナーの話です。それなのに変な上から目線のライターが多いぞ、という話で。秋山さんはチンコパフェの時からいつも丁寧じゃないですか。

――― もしかして私、佐藤さんの中で“チンコパフェの人”になっていませんか。

――― ネットモラルに関する話が出ましたが、私はインターネットにどんなユーザーが多いのか、いまいちつかみ切れていないというか。「YouTube」などは違法アップロード動画があふれていて、もちろん掲載した人間が一番悪いのですが、それに対してGood評価ボタンを押している人や、平然と好意的なコメントをよせている人があまりにも多い。たとえ見るにしても人間心理として、黙ってこっそりと見るでしょうよと。

佐藤さん:同感です。ニュースサイトのコメント欄なども、例えば交通事故で誰かが亡くなったニュースであれば、かわいそうだねとか、まず弔いの言葉が先にくるべきだと思うんです。「運転手のヤツざまぁwww」とだけ、わざわざコメントを残すなんて歪んでいる。精神論になってしまいますが。

――― 世間一般の常識、常識って言っちゃうとアレですけれども、世間一般の多数派の意見を持っている人達ほど、インターネットではそういうものに参加をしないで、ただ静観していると思うんです。

佐藤さん:その通りかもしれません。

――― ですが参加をしないから、さかんに参加をしている人たちの意見ばかりが目立って、それが世間の声なのだと思われてしまうフシがある。

佐藤さん:よくない状態ですよね。くしくもインターネットが発展した一因であるわけですが、コンプレックスの捌け口の場所となっているのは、まだまだ変わっていないのかなと。

――― もちろん全てを否定はしませんし、仕方のない面もありますが、もう少しなんとかならんのかなって。

佐藤さん:秋山さん、怒りましょう。怒り狂いましょう。

――― 怒り、ですか。

佐藤さん:僕はカメコを20年やってきて、最近のコスプレ撮影のマナーの悪さに怒っています。以前は無断撮影なんて御法度で、周囲にスタッフがたくさん立っていて、ルール違反が発覚したらその場で即データを消されていました。今は本人に撮影許可も取らずに、胸のアップだけ撮る人や、股間のアップだけ撮る人が多くて、変なアダルトフェスみたいになってしまっている。

――― しゃがんでずらっと取り囲んで。

佐藤さん:それがインターネット上では、「露出度が高い格好で来るほうが悪い」という意見が多々あるのです。もちろんコスプレイヤー側の問題もあるのですが、その「論調」は違うと思う。じゃあ街なかで、コスプレと露出度の変わらないミニスカの女子高生がパンツを盗撮されたら、「盗撮されるほうが悪い」とは誰も言わないだろうよと。「マナーを守らない撮影がダメ」なのであって。

――― おっしゃる通りだと思います。

佐藤さん:政治経済雑誌の記者をやっていた時代も、怒りが原動力でした。記者が民意の代表だなんて全く思いませんし、自分にそんなことを言える資格があるのかと苦悩もしましたが、ただ、沢山の人が変だと思っていることを深く追求できるのは、メディアだけだと思うのです。

――― 最後に、Web媒体の「1UP情報局」は継続されるということで、今後についてをお聞かせいただければと思います。

佐藤さん:秋葉原を歩いて見つけて取材して、といった記事をメインにした総合的な秋葉原情報サイトは、ここ数年で減り続けています。編集部全員、秋葉原の街を盛り上げたいという一心でやっておりますので、パワーの続く限り、その分しっかりと最前線を報道していきたいと思っています。

また、おそらく記事のテイストが変化していくと思います。もっとコラム的な記事、深い視点で切り込んだ記事を増やしていきたいなと。

――― 私個人としても楽しみにしております。

佐藤さん:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

――― 本日はありがとうございました。では、屋外での佐藤さんの撮影に移らせていただければと。

佐藤さん:上半身はスーツでびしっとキメて、下半身はすっぽんぽんで、顔のアップから徐々に引いていく画はどうですか。

――― ぜひぜひ。

佐藤さん:とめてください。

秋葉原の街がマイノリティーの受け皿として機能する時代は、もしかして近々終わりを迎えるのかもしれない。いや、はたまた、予想だにしない変革が待っているのかもしれない。

常に変化をやめない街だから、記憶の中の風景も、1つの場所になないろで。どんな時代が訪れようとも、たくさんの思い出を持つこの街を見続けたいと願う。

撮影中に佐藤さんは、「○○選手のバッティングフォームです」と言って、自慢気に一連の流れを披露してくれたが、マニアックなモノマネすぎて、理解ができずに困惑した。だが、レンズ越しに見える当の本人は楽しそうで、自然と筆者も、ふふっと笑った。

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